【椿―tsubaki―14】




 やよいよっか、はれ。
 きょうもこのながやにふたりのけんかのこえがひびいています。
 ふたりというのは、ぼくんちのおとなりにすむ、かずまさんとはるやさんです。
 いつもかずまさんがいいまかされていますが、じつはふたりとも、とってもなかよしさんです。
 ぼくのかあちゃんは「ふたりでいるときは、じゃましちゃだめよ」と、しょっちゅうぼくにくぎをさします。
 ぼくははるやさんとなかよしなので、はるやさんからきいたことがあります。
 「かずまさんはね、たんじゅんなんだよ。だからあつかいやすいんだ」って。
 きょう、かあちゃんがかいものにいったのでるすばんしてたら、おとなりからへんなこえがしたので、うちのかべのあなからおとなりをのぞいてみました。
 そしたらすわってるかずまさんのうえにはるやさんがのってうごいていました。あのこえははるやさんのものだったみたいです。
 でも、どうしてふたりともはんぶんだけはだかだったのかはわかりません。あたらしいあそびなのかな?こんどはるやさんにきいてみよう。


 弥生四日、晴れ。
 本日、予(かね)てより内偵を進めてきた和泉屋を捕縛することに成功した。皆が頑張ってくれたおかげで事後処理はすんなりと片付いた。
 それにしても春哉さんが詰所に飛び込んできて、私に抱きついたのには驚いた。数馬とはたびたび会っていたのだが、春哉さんとは久しぶりに会った。その変化におもわず我が目を疑った。
 初めて会った頃の春哉さんはまだ陰間であったが、化粧を施していた当時よりも、今日見た春哉さんの色っぽさはその比ではなかった。頬が上気していたが、あれは多分薬でも飲まされているものだと思う。
 数馬に「お前の男じゃなかったら間違いなく俺がもらってたな」と言ってからかってみたが、あれは実は本気だった。春哉さんはあんな男のどこがそんなに好きなのだろう。数馬に隙があれば私にも可能性があるのか。それはわからないが、試してみる価値はあるかもしれない。
 さて、明日もまた朝から探索だ。
 探索の途中で数馬と春哉さんの長屋に寄っていこうと思う。たしかあの近くに椿のかんざしが売られていたように記憶している。数馬が仕事に出てから、それを春哉さんに贈ってみよう。あの人にはあのかんざしがよく似合うような気がするのだ。


―終―



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